隆房の中納言へ心置きなく歌を(2)建礼門院右京大夫集を書いて
2.陰ながらあなたのお嘆きを
釈文:「つきもせぬ うきねは袖に かけながらよその涙を 思ひやるかな」
選字は「徒支裳せぬう記年八袖耳可介那可ら よ楚農涙を思飛やる可奈」
鑑賞:作者の歌には懸詞や縁語といった技巧の入った歌が見られる。「うき」は「憂き」と「埿(うき)」を懸け、「ね」は「音」と「根」を懸けている。
「かけながら」は「菖蒲の根を袖にかけながら」と「涙を袖にかけながら」を言いかけ、「蔭ながら」を響かせている。「音」と「根」は縁語。
歌意は「菖蒲を袖にかけながら、いつ終わるともない悲しみの涙が袖にかかる私ですが、蔭ながらあなた様の悲しみはいかばかりかとお察しいたします。」
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社