無理に忘れている昔のことを(3)建礼門院右京大夫集から

3.今の天皇を拝見して

釈文:「いとよう似まゐらせおはしましたる、上の御さまにも、数ならぬ心の中ひとつにたへがたく、来し方恋しくて、月を見て」

選字は「いとよう似まゐら勢さ せお者し満志多る上の御さまに毛数 奈羅ぬこヽ楼農中ひと徒爾堂へ可多九 きしかた恋事久て月を見て」

鑑賞:「上の御さま」今上天皇のこと。ここでは後鳥羽天皇。高倉天皇の第四皇子。治承四年(1180)にご即位され建久九年まで在位された。

安徳天皇が平氏に擁せられて都落ちしたため四歳で即位したが、当時は後白河法皇が実権を握り、平氏滅亡後も院政が続けられた。

大意は「(高倉院)に今上天皇がよく似ておいでになり、主上を拝見しても私の心の中一つに耐えがたく思われて、昔を恋しく思い出す。」

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社