無理に忘れている昔のことを(2)建礼門院右京大夫集から

2.宮仕え前よりいっそう

釈文:「ありしよりもけに、心のうちはやらむかたなくかなしきこと、何にかは似む。高倉の院の御けしきに」

選字は「阿里しより 毛け二心農う地者やらむ可多那久可奈 し記こと何耳可盤に無 高倉の 院乃御希志支二」

鑑賞:「阿里し」は渇筆で隣の右の行と対照的である。右の「羅」が左へ張り出していることから、「し」は簡素におさめている。同様に左隣は潤筆で「多那」と複雑に字のかたまりを配置している。

大意は、「宮仕は以前よりも大層、心の中ははらしようがないほど悲しく思われるのは、何にたとえられようか。高倉院のお顔や御姿に」

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社