彦星と織女が出逢ふ・六首〜十二首を書いて(5)建礼門院右京大夫集より
5.織女に衣をお貸ししよう
釈文:「人かずに けふはかさまし からごろも 涙にくちぬ 袂なりせば」
選字は「飛登可須耳介婦者可佐万志からこ 楼も奈美多二供ちぬ多毛度な里せ八」
鑑賞:「人かず」一人前の人として数えられること。人なみ。『紫式部日記』に「世にあるべき人かずとは思はずながら」
「かす」後で返してもらう約束をして一時的に他人に使わせたりすること。『古今和歌集』(雑)「主なくてさらせる布を七夕にわが心とや今日はかさまし」
「涙にくちぬ 袂なりせば」の表現から資盛との別離の後、詠んだものと思われる。
歌意は「人なみに今日はお貸ししよう唐衣を、涙でこんなにも袖が朽ちていなければ」
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社