ある心地よい春の日、物思ひにふける(1)建礼門院右京大夫集にて

1.四方の梢も

釈文:「四方の梢も、庭のけしきも、みな心ちよげにて、あをみどりなるに、小鳥どものさへづるにこゑごゑも、思ふことなげなるにも、まづ涙にかきくらされて、」

選字は「四方の梢毛庭農け志支も美な
    こヽ地よ希爾傳あ遠みと里奈
    流奈耳小鳥登もの佐遍つるこ

    惠こ衛毛お裳布こと難介奈留
    爾も万徒奈み多耳か支具羅されて」

大意は「あちらこちらの梢も庭の景色も、全て気持ちよさそうである。青々としたところに小鳥がさえずり、何のわずらいもないように見えて、涙で目の前が暗くなって」

晴れわたる春の心地よさそうな日に、生きとし生きるものの命の発露を目の当たりにした作者は、我が身に引き比べて、涙にくれるのだった。

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社