遠いところへ旅へ出ようと(4)建礼門院右京大夫集を書いて

4.比叡山の東

建礼門院右京大夫集 祥香書

ようやく都を後にした作者が向かった先は、比叡山の東麓・坂本でした。
釈文:「心ざしの所は、比叡坂本のわたりなり。雪はかきくら
    し降りたるに、都ははるかにへだたりぬる心ちして、
    『何の思ひ出でにか』と心細し。」

選字は、「心さ志農所者比叡坂本のわ里な李遊
     きは可支九羅し降利多流二みやこ者ヽ

     類か爾遍たヽりぬる心遅して何の思ひ
     出耳可登こヽ楼本曽志」

大意は、「行き先は比叡山坂本のあたりでした。雪で空がかき
     曇りながら降っているので、都は遠くへ隔った心地
     がして、『何か都を恋しく思うことはあったでしょ
     うか』と心細い思いです。」

鑑賞:「なにの思ひ出でにか」の「か」は疑問の助詞。悲しく
   つらい思い出はたくさんあるけれど、恋しく思うような
   種はない、という気持ちが込められています。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社