花の姿と熊野の波(1)建礼門院右京大夫集を書いて
1.美しい色つやに
光源氏にもたとえられた維盛様は、
『花のにほひもげにけおされぬべく』など、聞えしぞかし。そのおもかげは
さることにて、見馴れしあはれ、いづれかといひながら、なほことにおぼ
ゆ。
選字は、「者那農爾ほ日毛希二介於さ連ぬへ具
なと聞えし曽か志楚のお裳可遣八
佐るこ登にて見奈れ事あ者連い徒
連かといひを可羅奈ほこ度耳於本ゆ」
意味は、「『花の美しい色つやも維盛様には圧倒されそうだ』などと申し上げ
たことです。その面影は忘れられず、これまで親しんできた方々の
中でどの方がとりわけ悲しいというわけではありませんが、やはり
維盛様は特別に思われます。
これまでも、維盛様の艶やかな美しさは人々の印象に残っておりましたが、お亡くなりになったと聞き、ありし日を思い出す作者です。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社