生きていられそうもないけれど(1)建礼門院右京大夫集から
1.怒涛の中で
資盛が一人意気消沈した様子でたたずむ夢を見た作者が歌を詠みます。
「ただ今も、げにさてもやあるらむと思ひやられて、
波風の 荒きさわぎに ただよひて
さこそはやすき 空なかるらめ」
歌の選字は、「那三可せのあ羅支沙利き爾
多ヽ夜日亭さこ所者や春
支楚ら奈可流らめ」
歌意は、「激しくつらい戦乱の中を漂うような暮らしは心の休まることがないでしょうに。」
鑑賞:「波風」は本来、風が吹いて波の立つことから、比喩的にもめごとやつらい体験をさします。この場合は平家一門が都を離れて西国へ追われ落ちてゆく戦乱の激しさを述べています。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社