重衡は建礼門院右京大夫に思いを(2)建礼門院右京大夫集から

2.紫の・・・異なる解釈

建礼門院右京大夫集 祥香書

この歌には自然詠とみる異なる解釈があります。
「紫のひともとゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る」

歌意は、紫草のただ一本があるために武蔵野に生えている草は全ていとしいもの
    と見える。

鑑賞:紫草の根は染料として使われたが、その花や葉は注意を引くものとは言え
   ません。ただ一本の紫草によって武蔵野の野草全てに思いを寄せる、素朴
   な自然そのものへの情感を詠みあげた歌と読むことができます。

   「武蔵野」は今の東京都と埼玉県にまたがる地域です。この歌によって歌枕
    として有名になりました。

   「紫」は、古代に冠位や服色の制度が定めれて以来、最も高貴な人の色とされ、
    一般の使用は禁じられました。いつもは目立たない花であるが、そのけなげ
    さに魅かれて詠んだと言えるでしょう。

 参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院