湯治に来た友へ歌を贈る(3)建礼門院右京大夫集から
3.めずらしい鹿の音
二句目「めづらしく わが思ひやる 鹿の音を
あくまで聞くや 秋のやまざと」
選字は、「免徒らし具わ可於も日やる鹿の
年を阿久まて記久やあきのや万散と」
鹿の鳴き声は、古来より短歌に詠まれてきましたが、秋に恋の相手を求めて鳴く声が
多いようです。
『奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき』猿丸大夫
三句目「いとどしく 露や置きそふ かきくらし
雨ふるころの 秋のやまざと」
選字は、「以登ヽ志九露やお支所布かき久ら
しあ免不流ころ農秋のやまさと」
鑑賞:「いとど」は「いといと」の転。いよい。、ますます。さらにいっそう。
『源氏物語』桐壺に、次の歌があります。
「いとどしく虫の音しげき浅茅生に露置きそふる雲の上人」
歌意は、ますます降る雨の露の上に、涙の露を置き添えさせる秋の山里です。
「露」に雨と涙をかけて連想を豊かにし、さらに源氏物語が彩りを添えています。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社