うっそうと木が繁る部屋から(2)建礼門院右京大夫集を書いて
2.忘れたからといって恨まないわ「
「忘るとは 聞くともいかが み熊野の
浦のはまゆふ うらみかさねむ」
選字は、「忘流と者起具と毛い可ヽみ熊野の
う羅のは万ゆ布有ら三かさ年無」
歌意は、私のことを忘れてしまったと聞いても、重ねて恨んだりはしません。
鑑賞:熊野は古くから浜木綿の自生地でありますが、ハマオモトとも言われ温暖な気候に育ちます。この植物は幾重にも重なって葉を出すことから、恋の思いが尽きないことを表わす歌があります。万葉集に「み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へどただに逢ぬかも」
また、後拾遺歌集に「忘るなよ忘ると聞かば み熊野の浦のはまゆふうらみかさねん」道命法師(巻第十五 雑一 885)とあり、建礼門院右京大夫はこの歌を踏まえて、私は恨みませんよ、と詠っているのです。
参考文献:和歌の解釈と鑑賞事典 井上宗雄他編 笠間書院