隆信との歌のやりとり(1)建礼門院右京大夫集から

1.気のない歌の返しなど

建礼門院右京大夫集 祥香書

建礼門院右京大夫は、思いもよらないところで、言い寄られ、相手にする気などなくおりましたが、歌を寄越してまいります。

 「そぞろきぐさなりしをついでにて、まことしく申しわたりしかど、『よのつねのありさまは、すべてあらじ』とのみ思ひしかば」

選字は、「所ヽ路支く佐な利しを徒いて爾
     弖ま故と四く申しわ多里し可と

     よのつ年農阿里さまは寸遍天あ
     羅しとの見於も日し可盤」

意味は、気のないやりとりをしながら、隆信は真剣に考えていますよ、などと言うけれど「世の中にあるような恋は決してするまい」と心に決めていたら。

恋など決してしないと誓っていたものの、心は思い人に惹かれていきます。ところが、色好みの人に言い寄られるという事態に、もう恋などしないと思うのも無理からぬことでしょう。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社