一緒に踊り明かしましょう(3)良寛歌集より
3.老いの思い出に
最後のところでも工夫が見られます。「おい乃」で墨をつけて、強調して、「那こ里耳」ではスーと消え入るように終わっています。こういうところは、さすがです。
さて、歌意ですが、風はさわやかで、月はさえざえと照っている。さあ、一緒に踊りあかそう、齢を重ねた思い出に。
「お」の頭韻と「し」の脚韻がリズミカルに響いています。揮毫したものも、近い位置にありながら同じ字形にせずに、変化をつけています。これは、書いているときの視点が全体を見渡しているからできることです。
また、『万葉集』に「月夜よし川の音清しいざここに行くも行かぬも遊びてゆかむ」巻四・五七二 大伴旅人があります。漢詩文に通じ、老荘思想の影響が見られる大伴旅人は、修辞を凝らさず、その時その場に応じた歌を吐露しました。*①
こうした点も、良寛が親近感を覚えた理由だったのでしょう。
*①出典:万葉秀歌鑑賞 山本健吉著 講談社学術文庫