わずかな移り香も(3)建礼門院右京大夫集を書く

3.知らないうちに涙が

建礼門院右京大夫集 祥香書

人知れず、ほおをつたう涙に自分でもハッとするといった経験はないでしょうか。
六行目から
 「いと久しくおとづれざりし頃、夜深く寝覚めて、とかく物を思ふに、おぼえず涙やこぼれにけむ、」

選字は、「い登久しく於とつれ志ころ夜ふ可九
     年佐免てと可久物を思布爾於本え
     春なみ多やこほ連耳介む」

意味は、あの方が、しばらくおいでにならない頃、まだ夜が明けない内に目が覚めて、あれやこれやと物思いをしていました。ひとりでに涙がこぼれたのでしょうか。

切なく、やり場のない涙に、作者もおどろき、どうしたのだろう、といぶかしく思います。さらに翌朝になり、あることに気づくのです。
 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社