わずかな移り香も(2)建礼門院右京大夫集を書く

2.明るくなっていく月影も

建礼門院右京大夫集 祥香書

作者が月にかかる雲を見て晴れるのかしら、と上を見上げながら詠んだ歌が
 「見るままに 雲ははれゆく 月かげも
  心にかかる 人ゆゑになほ」

選字を、「見流まヽ爾久裳はヽ連ゆ具月か介毛
     こヽ路耳可ヽ類ひとゆゑにな本」

歌意は、見ている間に、雲が晴れてゆき月影も明るくなってきました。でも私には、あの人のことが心にかかり、くもって見えることです。

「雲」「はれ」「月」「かかる」が縁語になっています。
幾重にもかかる思いが、月にかさなり、なかなか気持ちが晴れない作者の心情が、最後の「人ゆゑになほ」で特徴的に表れています。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江 新潮社