資盛のあの時のおもかげ(1)建礼門院右京大夫集を書いて
1.雪の降りつもった朝
建礼門院右京大夫が、忘れがたく思いだすある日のシーンから語られます。それは、雪が多く積もった朝のことでした。
釈文「雪の深くつもりたりしあした、里にてあれたる庭を見いだして、『けふこむ人を』とながめつつ、うす柳の衣、紅梅のうすぎぬなど着てゐたりしに、」
意味は、雪が深く降りつもった朝、郊外の荒れた庭を部屋の中から見て、「けふこむ人を」と古の歌を口ずさみ、薄い柳色の衣に紅梅のうすぎぬを着ておりましたときに。
「けふこむ人を」:「山里は雪ふりつみて道もなしけふこむ人をあはれとはみむ」(平兼盛 『拾遺集』)などの歌を思い出し、こんな日に訪れる人があれば、どれほど趣があるだろうか、と感懐に耽っていたところでした。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社