夫を恋しく偲ぶ歌(2)建礼門院右京大夫集を書く

2.日ごとに荒れゆく住まい

建礼門院右京大夫集 祥香書

さらに、日毎に荒れてゆく住まいの様子を歌います。
 「日にそへて あれゆく宿を 思ひやれ
  人をしのぶの 露にやつれて」

選字は、「ひ爾曽遍弖あれゆ具やとを
     於も日や連人越志能布の露
     爾屋つれ弖」

歌意は、毎日、荒れてゆく私の住まいを、考えてみてください。夫を恋しく偲ぶ涙に我が身はやつれ、庭にしげるしのぶ草は露でひどく濡れています。

「しのぶ」は「夫を偲ぶ」と「しのぶ草」の懸詞。
「露」は涙の露としのぶ草の上の露を重ねています。

このように和歌では、掛詞で一つの言葉に二つ以上の意味を持たせている場合があります。「しのぶ」を「偲ぶ」と漢字で書きますと、どうしても意味が一つに限定されてしまうおそれが生じます。

変体かなは、和歌の意味に複合的な面をもたせることも見逃せません。漢字とかなだけのみならず、変体かなは日本語を書く上で単調に流れないために、有効であることがあります。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社