何も思いわずらうことがない(4)酒徳頌から

4.思うことがないとは

酒徳頌巻 董其昌 祥香臨

前回、「無思無慮」は考え思うことがない意、と書きました。
『荘子』知北遊に「思うこと無く慮ること無くして、始めて道を知らん」とあります。*①

作者の劉伶は、思いのままに行動し、無為の化を朝廷で説き、罷免されました。道家の思想に親しんでいた人物です。

思いわずらいがないということは、そのように、しようとしてやっているわけではないのです。この場合も、大人先生はお酒の力もありながら、そのままに、どこまでも自分の生を全うしていきます。

考えとは、後からやってくるもので、物に当たったり、人にぶつかったにせよ、その時はただ痛いと感じるだけのことでしょう。それをああでもない、こうすればよかったと、考え出すとそこにいられなくなり、迷い始めるのです。

 出典:*① 漢詩と名蹟 鷲野正明 二玄社