董其昌の書(5)酒徳頌を味わう

5.善行無轍跡

董其昌 祥香臨 二玄社

『老子』第二十七に「善行無轍迹、善言無瑕謫」とあります。
「善く行くものは轍迹無し。善く言うものは瑕謫無し。」

現代語訳は、すぐれた旅行者は、(車の)わだちや(足)跡を残さない。すぐれた弁論者は、(硬玉の細工人がみがいた玉のように)少しの瑕も残さない。
このことから、本当の善行はなかなか目立たないの意とされます。*①

しかし、さらに読み進めると、
「善である人は、善でない人の師であり、善でない人は、善である人の手段である。その師を尊ばないもの、その手段を愛さないものは、どんなに知恵があっても、大きな迷いがある。これが最もたいせつな秘密である。」*②

そう簡単な話ではないことに気づきます。「聖人は、人々を救い出し、誰も見捨てない」ともあります。この意味するところは、聖人の善い行いが人々にあまり知られない、というよりも聖人は人々に知られるようなやり方で彼らを助けたりしない、と言うことでしょう。

そして、人知れずなされた善行を、尊び、愛さなければ、知恵があっても心は迷ってしまいます。
 *出典:①故事成語辞典 福音館
     ②老子 小川環樹訳注 中公文庫