月は所によって明るい他(5)建礼門院右京大夫集
5.山家花を待つ
「山里の桜を待つ」の題で詠まれるのは、四十首最後を飾る歌です。
「山ざとの花おそげなる梢より
またぬあらしの おとぞ物うき」
選字は、「や万沙との花お處希な留
こ春ゑよりまたぬ阿ら志の
於とそも能う支」
「山家」と「花」と言えば、西行の登場でしょう。
「吉野山桜が枝に雪ちりて
花おそげなる年にもあるかな」*①
「山」、「花おそげなる」で連想されるのは、桜を待つ身に容赦のない自然の脅威といったところでしょうか。題詠で、これほど複雑な歌を詠めるのは、下敷きになる歌の素養と、感性のなせるわざといえます。
次回からは、題詠から再び物語に戻ります。
*出典:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社