過ぎ去ったかつての恋(3)建礼門院右京大夫
3.仙人の家に卯の花
二句目は「仙家卯花」、仙人の家の卯の花という題意です。
前回の「往時の恋」から「仙人の家」に飛びますが、これは、素性法師『古今集』(秋下)の歌をふまえています。
「露ふかき山路の菊をともとして
卯の花さへや千代も咲くべき」
選字は、「つ遊ふ可き山路の支九を登毛と
し傳う乃者那さへや遅よ毛
さく遍き」
歌意は、「山路の菊の露にぬれた衣を干す間に、千年もの年月がかかるといわれているのだから、卯の花も千年咲くことだろう。」*①
素性法師の歌を本歌としているので、時空をやすやすと超えて千年ののちのことを詠めるのでしょう。千年も生きるという巨木は、仙人の姿も垣間見ているかもしれません。
*出典:建礼門院右京大夫集 新潮社