憧れの君を見る人の(5)-建礼門院右京大夫
5.なかなかに気ままなお振舞い
今回の場面では、いくつかの印象的なやりとりが見受けられます。
イ)かな書の観点から言いますと「あふひ」を「逢ふ日」と「葵」にかけていることです。
現代では、「逢ふ日」は「アウヒ」と読みますし、「葵」は「アオイ」と読みます。
関連付けて読み取ることは難しいかもしれません。
さらに、「葵」は賀茂社の神紋の賀茂葵を由来としていることです。その後の変形を経て、
徳川家の葵巴に至ったことは興味深いです。
ロ)容姿の美しさにとらわれの心が生まれるのは、よくないことだ、と当時の人が考えていたことです。広く、執着心が悟りの妨げになるとは、仏教の教えです。それが、ごく自然に自らの言葉として出てくることは、教えが実宗の心身に行き渡っていたのだろうと思います。
ハ)いわゆる高嶺の花と、維盛を見立てています。
こういう表現が、女性から男性に向けてなされています。男女共用の襲の色目があり、
美しさも共通に認識されていたようです。
現代にも通ずる美意識が垣間見られる、これらのシーンは、時代を超えて共感を生むのではないでしょうか。