六祖慧能に寄せて道元は(3)

3.慧能、偈を詠む
大衆が神秀の偈を読誦するのを聞いて、慧能が、
「菩提本樹無し 明鏡亦た台に非ず
 本来無一物 何れの処にか塵埃を惹かん」

という偈を作り掲げた。これを見た五祖は、慧能に衣鉢を付授し、『汝を第六代の祖と為す。善く自ら護念して、広く迷人を度せよ』

神秀が、「我が身は菩提樹のようなものである。心は、鏡のようなものだ。しばしば、払いぬぐい、塵や埃がつかないようにしなければならない。」

と呈したのに対して、慧能は、「この身は菩提樹などでは、もとより無い。心は鏡でも無い。もとから何も持っていないのだ。どうして、塵や埃をとりのぞくことができようか。」

誠に見事、喝破し、習い臭さを一掃した偈です。
      参考文献:禅の古典詳解 芳賀幸四郎他