古を訪ねて万葉集の相聞歌(5)金沢本を臨書して

5.あなたが旅に
釈文:「君が行きけ長くなりぬ山たづね 迎へか行かむ待ちにか待たむ」

選字は「きみ可ゆ支けな可久那利ぬやまたつね む可へか遊可むまち爾かまた無」

歌意は「あなたが旅に行かれてから日数が経ってしまった。山をたずねてお迎えに参ろうか、お待ちしようか。」

鑑賞:前出の万葉仮名の表記とは異なり、かなはやわらかな、かな文字を多数使用。「行」「山」「待」の漢字も用いられない。変体かなは「支」「那」「利」「遊」「無」くらいである。

特徴はゆったりとした書きぶりながら、行の揺れや文字の大小、文字の疎密にあろう。一行目の「け」から「な」は同じ偏と旁の字でありながら「け」の偏の下に余白を残すことで動きを出している。

また「ぬ」と「や」、「た」と「無」は密にして緊張感を生んでいる。ここで目を引くのは二行目の「か」から「遊」への連綿と「遊」の辶の向きである。巧みに方向を変えることで流れがあらわれている。

参考文献:金沢本万葉集 藤原定信筆 二玄社