時雨の紅葉・風の前なる(3)和泉式部日記を書いて

3.風の前の燈
釈文:「目をさまして、『風の前なる』などひとりごちて、みな散りぬらんかし、きのふ見で、とくち惜しう思ひ明かして、つとめて宮より」

選字は「目越さまして 風の前な留なとひと里故遅亭み奈千利ぬら 无可志きの布見て登具ち惜しう思ひ明可 志てつと免て宮よ利」

鑑賞:「風の前なる」和泉式部は自らを「風の前なる木の葉」とかんじていたふしがある。「日をへつつ我なにごとを思はまし風の前なるこの葉なりせば」『和泉式部続集』にある。

仏典に「寿命猶如風前灯燭」(倶舎論)とある。物事のはかなく不安定なことのたとえ。『平家物語』に、たけき者も遂には滅びぬ。ひとへに「如風前灯燭」に同じ。

参考文献:和泉式部日記 和泉式部集 清水文雄校注 岩波文庫