芭蕉の俳諧はどう展開したか(5)

5.古典にみる夏・なつ

関戸本古今集  二玄社   祥香臨

芭蕉の句「夏艸や兵共可夢の跡」を書の筆法や選字の観点からみていきます。
まず、「夏」ですが、上記の関戸本古今集に後ろから五行目、「夏夜」に漢字の行書による「なつ」がみられます。一方、最後から二行目の「止こなつの花」では「奈川」というよりも「なつ」と現在でも読むことができます。

この歌の釈文は「夏夜はまだよひながらあけぬ
        るを雲のいづこにつきやどる
        覧」
漢字で文頭の「夏夜」を書き二行目で一行目の「夏夜」と位置を下げてずらしています。
さらに三行目「覧」と渇筆で大きく書いている点は興味深いです。

次に「艸」は今はあまり使われない字ですが、草冠を辞書で引く場合に「艸」部で出てくるものです。「兵共」は「つわものども」と書くのに比べ、文字数が少なく句が引き締まる印象です。「夢の跡」も最後に漢字でおさめています。

粘葉本和漢朗詠集で見たように、平安時代の頃は主に漢詩は男手と言って漢字で書き、和歌はいわゆる女手で仮名で書いていたと思われます。時代が下るにつれて、混在する例も見られますが、概ねそのように推移してきたようです。

それが変化したきっかけに、芭蕉が著した俳諧集や、紀行文があったのではないかと推測されます。これから、その点を探る旅にまいりましょう。