七夕の日にちなみ五十一首を(5)建礼門院右京大夫集から

5.きりぎりすの鳴く声は

釈文:「声のあやは 音ばかりして 機織の
    露のぬきをや 星にかすらむ」

選字は「こ衛者あや八音は可里して機織の
    露の努支遠やほ志耳可須ら無」

鑑賞:「声のあや」は「声の文」と「綾織物」との懸詞。『後撰集・秋上』藤原元善「秋くれば野もせに虫の織りみだる声のあやをば誰かきるらむ」ここで「織りみだる」はこみいった模様に織り出すこと。

「ぬき」は織物の横糸。『万葉集』に「み吉野の青根が峯(たけ)の苔むしろ誰かおりけむたてぬきなしに」

歌意は「きりぎりすのなく声は機を織っているようだが、音ばかりで織物が見えない。今宵は織姫星に横糸に使う露を貸してしまったからだろうか。」

この歌は夫木和歌集に入集。夫木和歌集とは鎌倉後期の私撰和歌集。撰者は冷泉為相の門弟、藤原長清。

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社