安徳天皇のお誕生など(4)建礼門院右京大夫を書きつつ

4.感極まって

建礼門院右京大夫集 祥香書

お隣の庭で篝火が焚かれ笛の音が聞こえ、かつて宮中での日々をまた思い出した建礼門院右京大夫は、

 「きくからに いとどむかしの 恋しくて
  庭火の笛の 音にぞ泣くなる


選字は、「きく可羅耳い登とむ可しのこ非志く
     轉爾者飛のふえ農禰二曽なく那る」

歌意は、お隣の笛の音を聞くだけで、宮仕えの昔が懐かしく思い出されて、つい声に出して泣いてしまったことです。

これに似た、隣家の笛の音に昔を思い出し、心が動かされる場面が、『文選』巻八に謳われています。『文選』は中国の周から梁に至る千年間の詩文集です。後世、知識人の必読書とされ、日本でも平安時代に盛んに読まれました。

このことから、作者は漢籍の素養もあり、和歌に詠まれたものと思われます。またた、『文選』では、今は亡き友人を思い謳ったことから、感情が迫ってきたのでしょう。

 参考文献 建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社