恋人の愛情が信じられず(2)建礼門院右京大夫集を書く

2.賀茂神社の冬の月

建礼門院右京大夫集 祥香書

時代によって、景色やそれを彩る季節の移ろいに対する美しさが変化していきました。源氏物語では、「冬の月の美しさ」は取るに足らないものとされていましたが、平安時代後期になると「花もみじの盛り」よりもすばらしいと評され流ようになります。

その背景には、藤原定家が「明月記」で月を眺めて歌を詠んだことが影響しています。さらに室町時代中期の冷え寂びたる景を愛でる傾向を先取りしている歌とも言えます。

 「冬の夜、月明きに、賀茂にまうでて
 神垣や 松のあらしも おとさえて
 霜にしもしく 冬の夜の月


選字は、「可み可きやまつのあらし裳於とさえ
     て志も耳四无事久布遊のよ農
     徒支」

歌意は、「神社の境内は、松に吹く風も音を立てて冷え切り、霜の上にさらに霜が降りたようにさえわたる冬の夜の月であることよ。」

作者は、夜の天空に想いを寄せる歌が見られるが、新しい視点をもった読み手出会ったことが伺えます。
 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社