憧れの君を見る人の(4)-建礼門院右京大夫
4.本心はどちらでしょうか
さらに、実宗が問いかけます。
釈文:といひたれば、「おぼしめしはなつしも、深き方にて、心清くやある」と笑はれしも、さることと、をかしくぞありし。
選字:とい日多れ者お保しめ志ハ
なつしもふかき可多にて
心支よくやあるとわら盤
連しもさることゝ越可し
くそあ利し
歌意は「と申し上げましたら、実宗殿が『そのようにお諦めになることこそ、深く思っている証拠でしょう。ご本心ではないでしょう。』 と笑われるのも、なるほどそうだと、興味深く感じられました。」
実宗のからかいにも似た言葉の掛け合いにも、一理あるのだと感心するところは、建礼門院右京大夫の育ちの良さがうかがえる挿話だと思います。この頃の建礼門院右京大夫は、素敵な方をお見かけしたとしても、恋に落ちたりはしないと、ひそかに思っていたのでしょう。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社