行書般若心経-最後の真言・掲諦(ぎゃてい)集字聖教序より

1.開かれる秘密の言葉
釈文:「故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰 掲諦掲諦 波羅掲諦 波羅僧掲諦 菩提娑婆訶」

書き下し文は「故に般若波羅蜜多の呪を説く 即ち呪を説いて曰く 掲諦(ぎゃてい)、掲諦、波羅掲諦、波羅僧掲諦、菩提娑婆訶(ぼじそわか)。」

鑑賞:『心経』最後の一説であるが、昔より秘蔵真言と称せられ、翻訳されずにそのまま読誦されてきた。なぜなら、漢訳や日本語訳をすることで、分かったような気になってしまい本質を見失うおそれがあるからである。

その上で、あえて「掲諦」以下の和文を示すと、「行ける者よ、行ける者よ、彼岸に行ける者よ、彼岸に全く行ける者よ、さとりよ、幸あれ。」

これは智慧の到達者を祝福する真言であり、この呪文が『般若心経』のエッセンスといってよい。玄奘三蔵法師が『般若心経』を漢語に翻訳するとき、この部分だけは梵語のまま音を漢字で表したことも、それを示している。

参考文献:般若心経講義 高神覚昇著 角川文庫
般若心経講和 鎌田茂雄著 講談社学術文庫