初めての南院へ人のいない廊へ(4)

4.宮はむりにお乗せになり

釈文:「車をさし寄せて、ただ乗せに乗せ給へば、われにもあらで乗りぬ。人もこそ聞け、と思ふ思ふ行けば、いたう夜更けにければ知る人もなし。」

選字は「車越さし寄せ傳多ヽ 乃せ耳農勢多万遍者王れ爾もあ羅ての里ぬ 人毛こ楚と思布思ふ行介者い多う夜更け爾遣 麗者し流人もな志」

解説:「乗せに乗せ給へば」宮がお乗りなさい、さあさあとむりにお乗せになった様子。「人もこそ聞け」人にわかってしまうだろう、という女の心情を表す。

「思ふ思ふ」同じ言葉送り返して強調する用法。女は宮から誘われて車に乗ったものの、人に知られてしまうだろうと、逡巡している。ただ、夜更けなので、見知った人はいなかった。

参考文献:和泉式部日記 和泉式部集 野村精一訳注 新潮社