老練な女房と平通宗・中将との(5)建礼門院右京大夫集より
5.いつも御簾のそばに
釈文:「『ただここもとにたちさらで、夜昼さぶらふぞ』といひてのち、『露もまだひぬほどにまゐりて、たたれにけり』と聞けば、召次して、『いづくへもおひつけ』とて、はしらかす。」
選字は「たヽこ古もとに堂遅佐ら弖夜 昼さ布羅ふ曽とい飛て能ち露もま 多比ぬ本と耳満ゐ利弖堂ヽれ爾介 里登き希八免し徒支志ていつ久 へも追日徒介とて波事ら寸」
鑑賞:「召次(めしつぎ)」は院中で雑事をつとめ、時を奏し、取次などをした卑官。ここでは取次の者をいう。
また「時を奏す」とは時刻を知らせること。平安時代、宮中で左右近衛府の夜行の官人が、亥の一刻から四刻までにわけ、各刻ごとに「時の簡(ふだ)」に杙(くい)をさして、大声にその時刻を呼ばわった。
大意は、「いつもこの御簾のそばを離れないで控えておりますよ」と言った後で、『露もまだ乾かない早朝に通宗が参内して来て、御簾の前に立っておいでです』と聞いたので、取次に『どこまでも追いかけなさい』と走らせた。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社