弥生の頃、資盛の命日に(2)建礼門院右京大夫集から

2.しくしくと泣くばかり

釈文:「かく思ひしこととて、思ひ出づべき人もなきが、たへがたくかなしくて、しくしくと泣くよりほかのことぞなき。我が身の亡くならむことよりも、これがおぼゆるに、」

選字は「可九思ひ
    し故とヽてお裳日出つ遍支飛
    度もなき可堂へた久閑奈し九

    て志倶ヽヽと泣久よ梨ほ可能こと曽奈
    記わ可身農那久奈ら無こ登余り
    毛許連可おほゆ類に」

鑑賞:作者は自分が亡くなることよりも、資盛の命日を思い出してくれそうな人はいないことに悲しみを覚えて、しくしくと泣いている。

大意は、「こうして私が思っていたからと誰かほかの人が資盛の命日を思い出してくれればいいのに、そうした人はいない。それがかなしくて泣くばかりだった。私のことよりも、悲しくて。

私だけが資盛の忌日思い出すだけなのだ、という現実が作者の支えとなっていたのではないだろうか。

参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社