あなたと私が同じ世にいることは(1)建礼門院右京大夫集を書きながら

1.本当はお便りを出すまいと思っていた

建礼門院右京大夫集 祥香書

資盛からは、都落ちの以前より、すでに亡きものと思ってほしい、自分もそう思うからと言われ、ずっと耐えてきましたが、やはりご兄弟達の悲報を聞き、いてもたってもいられずに、なんとかお手紙を差し上げたいと願う作者は、

 「たしかに伝ふべきことありしかば、『かへすがへすかくまでも聞えじと思
  へど』などいひて

さまざまに 心乱れて 藻塩草 
かきあつむべき 心ちだにせず


和歌の選字は、「さ満ヽヽ耳心美た連て裳し
        ほ具散可幾阿川无へ支心遅多二勢春」

歌意は、「あれやこれやと心が乱れ、思いがあふれ、お手紙にしたためる
     ことはできそうにありません。」

鑑賞:「藻塩草」は藻塩の材料の海藻。かき集めて使うことから、和歌で
    はものをかき集めるにかけて表されます。

    用例が、源氏物語の『幻』に「かきつめて見るかひもなしもしほ草
    おなじ雲ゐの煙とをなれ」あります。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社