恋の山路に迷う身には(1)建礼門院右京大夫集から

1.恋を急ぐ人は

建礼門院右京大夫集 祥香書

歌の代作を頼まれて、詠むこともあった作者です。恋を急ぐ人へ、
「人の女をいふ人に、五月過ぎてと契りけるを、心入られして、しのびて入りにけり
 と聞く人のもとへ、人にかはりて」

選字は、「人の女をい布人爾五月過きて
     遅(き)利ける越こヽ楼いられ志弖四農

     ひて入利耳希里登き九比との
     もと遍人爾か者り天」

大意は、ある人の娘に求婚した男性に、五月は忌み月だから、それを過ぎてからにしてねと約束していました。にもかかわらず、男が待ちきれなくて娘のところへ忍び入ったという噂がありました。娘の父上に代わって歌を詠みました。

時代が下るにつれて漢字と仮名が混じった詞書が多くなってきます。ここでも漢字を用いて意味を分かりやすくしています。それでも変体かなを使って変化とリズムが感じられます。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社