揺れうごく女こころの吐露(1)建礼門院右京大夫集に親しんで
1.むごい挨拶
(これまでのお話)華やかな宮中での経験を若い頃に積み、間近に見る公達たちの凛々しさや中宮様方の麗しさに心躍らせた建礼門院右京大夫も、恋の悩みを持つようになります。他の人のような恋は決してするまいと思っていたものの、言い寄られて断りきれず、その深みへと入っていくことになります。
藤原隆信とは、迎えの車が来て屋敷へ通う恋愛のスタイルを取っていました。他には通い婚といって男性が女性宅へ通う形式がありました。音沙汰がしばらくなかった作者の元へ、隆信が車を寄こします。
「絶え間久しく思ひ出でたるに、『ただやあらまし』とかへすがへす思ひしかど、心よわくて行きたりしに、車より降るるを見て、『世にありけるは』と申ししを聞きて、心ちにふとおぼえし」
しばらく放っておいて今更、おいで下さいなどと車を寄越したけれど、どうしようかしらと迷いながらも、気が弱くなっていた私は出かけていきました。その私を見て、隆信が発した一言が、「あなた、生きていたのですね。」
かつての作者であれば、丁々発止と返すところですが、「心よわく」なっているものですから、なんてむごい一言だろうと歌を詠みます。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社