かつて、あなたにお逢いした時(7)建礼門院右京大夫集から
7.袖のうつり香は
「わびつつは かさねし袖の うつり香に
思ひよそへて 折りしたちばな」
選字は、「王ひ徒ヽ者可さ年志曽傳のうつ
梨可耳思比よ所へて折利し多
ちは奈」
鑑賞:一行目の行幅とニ行目のそれが重ならないように、字を選び書いています。目で追っていきますと、書いている時と同じような動きを体験することができるでしょう。変体かなの引き出しから適切な文字を抜き出して、織りなす紋様のようにつなげます。
歌意は、橘の枝をお送りしたわけは、思い煩いながらもお慕いしていたあなたの香りとみなしてのことです。「藤原隆信朝臣歌集」にも所蔵されていますが、この返歌は異なっています。「何れとは思ひもわかずなつかしくとまる匂いのしるし計りに」となっています。
思いを寄せる女の情趣がほとばしる歌となっており、どちらが偽物であるかはわかりませんが、お互いの立場を踏まえた歌となっているところは興味深いです。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社