かつて、あなたにお逢いした時(6)建礼門院右京大夫集から
6.あの橘は古歌に由来してるの
「むかし思ふ にほひかなにぞ 小車に
入れしたぐひの 我が身ならぬに」
選字は、「む可し於もふ爾ほ日可な爾處
越久る万耳い連志多供日のわ可
身奈羅ぬ爾」
一行目の始まりを軽くして、ニ行目は密から始めています。行の面構成を考えると疎や密を固めた方が、徐々に動いて行く様子がわかりますが、三行書の和歌として考えると墨の量が行ごとに異なる方が見応えがあると思います。
歌意は、あなたが私に贈った橘は、昔の恋人の香りを懐かしむ古歌に準えているのですか。私は通りすがりの女性が立花の花を投げ入れるような才人とは違いますよ。
このように『古今集」や『唐物語』の故事を引用して、巧緻に富んだ歌を送ります。いくらか茶化しているようにも思えます。「さつきまつ花橘の香をかげばむかしの人の袖の香ぞする」(よみ人しらず)に依拠しています。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社