まことの道へ入った人さへ(5)建礼門院右京大夫集を揮毫して

5.前世の縁には

建礼門院右京大夫集 祥香書

しばらく、ご連絡をしないからといって、あなたのことを疎ましく思っているわけではないのよ、お察しくださいませ。もう一首の歌は、もう少し恋人の存在を匂わせます。

 「さきの世の ちぎりにまくる ならひをも
  君はさすがに 思ひ知るらむ


選字は、「さ記のよ農千支里にま久類な
     羅日をもき美者佐寸可爾於も
     ひし流ら无」

歌意は、前の世の約束は、違えることができない慣わしと、あなた様ならお分かりになってくださるでしょう。

思いがけず恋に落ちた作者は、しばしばそれを宿縁と感じ、逃れることができない思っています。なかば諦めに近いような、陶酔にも似た感情でしょうか。今も魅力的な詞かもしれません。

 参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社