わずかな移り香も(1)建礼門院右京大夫集を書く
1.雲が晴れても
思い人につれない態度をとられ、沈みがちな作者が、
「 同じことをとかく思ひて、 月の明き端つ方にながめゐたるに、むら雲はるるにやと見ゆるにも」
選字は、「於なしこと越登可具おも飛て月の
あ可記者し徒可多爾那か免ゐ多流二
むら九毛はる耳や見遊路*爾も」*流
意味は、同じことをあれこれと思って、月が明るい端の方で眺めていると、雲が晴れてきました。
思い悩むことの多い作者は、月を眺めても気持ちはなかなか変わらないのですが、月にかかっていた雲が、見ているうちに晴れてきます。普通はそこで気も晴れるところですが、今の作者はどうでしょうか。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社