夫を恋しく偲ぶ歌(1)建礼門院右京大夫集を書く
1.涙のつらら
前回、大納言成親の流罪を悼んで建礼門院右京大夫が京極殿に歌をおくりました。そのお返しの歌です。
「床のうへも 袖も涙の つららにて
あかす思ひのやるかたもなし」
選字は、「登このう遍も處傳毛なみ多の
徒羅ヽ耳て阿か春おもひ農
やる閑多裳那し」
歌意は、あなたのお言葉とおり、床の上にも、袖の上にも涙のつららが何度も悲しみつつ夜を明かすのですが、この思いは晴れることがありません。
贈られた歌にこたえる歌が、これほど悲しみをあらわにするものだとは、知りませんでした。それだけ、お辛い気持ちがまさっていることなのでしょう。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江校注 新潮社