胡蝶の夢(5)荘子を書く
5.万物をつらぬくもの
万物斉同の哲学は、さまざまな対立の現象の奥にあってそれらをつらぬいている絶対的な理法に着目します。そこに立つと、一切が無差別無対立だという真実の相が明らかになるのです。
絶対的なものというと、超越的な存在を思い浮かべる方もおられるでしょう。しかし、自ずからあるそのままの姿を、そのままに受け入れることです。
「自己を放ち棄てる因循主義は、実は死んでよみがえる働きをもつものであった。有限な存在としての微小な人間は、それによってその有限性を脱出する」*①
こうしたことが、逍遙遊篇の大鳳の飛翔で美しく語られていました。胡蝶の夢は、自と他の境界が失せ、自分の中心がなくなった様子を示しています。そのとき、人はわずらいから解放され、とらわれのない心身となるのでしょう。
*出典:① 荘子 金谷治校注 岩波書店