月明かりにうたげの追憶(6)建礼門院右京大夫集を書く
6.皆に歌を
釈文:「少将、かたはらいたきまで詠じ誦じて、すずりこひて、『この座なる人々、なにともみな書け』とて、わが扇に書く」
選字は、「少将可多はらい堂支まて詠し
春ん志て数ヽりこひ弖この座
なる人〃な耳登毛みなか遣登
弖利可阿希きに書九」
大意は、「隆房は、近くで聞いていて恥ずかしくなるほど、声に出して吟じて、硯を持って来させ、『ここで共に座している方々は、皆何なりと書きなさい』と言って、まず自分の扇に」
ノリに乗っている隆房殿は、誰も止められないほどで、ついには硯を持って来るように言い、自らの扇に和歌をしたためました。
この展開は、書を嗜んでいる者にとって格好の場面ですね。興に乗って揮毫することは、望外の娯しみでしょう。とりわけ草書やかなは流麗で気持ちも伸びやかになります。
参考文献:建礼門院右京大夫集 糸賀きみ江 新潮社