恋人が離れていくのが辛いわけではないの(2)建礼門院右京大夫集
2.橘の香をかぐと・・
古今集(夏)の歌に「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(読み人知らず)があります。この歌が念頭にあったのでしょう。
「心ありて 見つとはなしに たちばなの
にほひをあやな袖にしめつる」
歌意は、「何か特別な思いがあったわけではないの、ただ昔の歌のように香を袖に染めてみました」
古今集の「昔の人」とはかつて親しかった恋人のことで、その人の袖の香りが懐かしいという歌を思い出して詠まれました。思いが届かぬ人の残り香をかぎ、かつての日々を思い出しているのでしょう。
参考文献:建礼門院右京大夫集 新潮社