夏野の草や、水鶏よ(5)建礼門院右京大夫集
5.稲荷の社の歌合
「稲荷神社で歌合があった時の歌」で、「神社のあたりの朝の鶯」を題としています。
なかなか凝った設定であるにもかかわらず、書き出しが「まろねして」はおもしろいと思います。一句目で肩の力がスッと向ける感じです。「まろね」は帯も解かずそのまま仮寝してしまうことです。
「まろねして かへるあしたの しめの中に
心をそむる うぐひすのこゑ」
選字を「ま路年してか遍るあ志たの
し免乃う遅にこゝろを所
無流有久ひ春のこ衛」
今回の特徴は、二行目の「し」を渇筆で長く伸ばし、一行目の墨が入った潤筆と対比させている点です。行間の広狭にも交互に応じるように配慮しました。
歌意は、「神社にお参りし、帯も解かずにそのまま仮寝した翌朝に、境内では心に染み渡る鶯の声が聞こえました。」何となく不思議な歌に聞こえますが、現と幻は混ざり合っているようにも感じました。
参考文献:建礼門院右京大夫集 新潮社