「六つのみちを」道元は(3)
3. 父母の報恩のこと
夜話の折に、懐奘禅師が質問します。
父母に対する報恩のことなど、出家した者も、なすべきでしょうか。
道元禅師が言われるには、
「出家は棄恩、入無為、無為の家の作法は、恩を一人に不限、一切衆生斉く父母の恩の如く深しと思て、所作善根を、法界に巡らす。別して今生一世の父母に不限。是則、不背無為道也。」
無為:有為(俗世間における人間の営み)に対する語。無為とは、俗世間の相対の世界をこえた寂静涅槃の絶対の世界をいう。
「棄恩入無為、真実報恩者」(恩愛の世界を捨てて無為の世界に入るのは、真の報恩者である)とは『清信士度入経』にある語で、得度のときに、この偈を誦する。*①
老子が道のあり方をいう時の「無為」は、作為のない自然なことです。
そして仏教では、「無為」を因縁によって生成されたものでなく、生滅変化を離れた永遠の存在で、仏の涅槃、仏法者の生活を意味します。
*出典:① 正法眼蔵随聞記 山崎正一 講談社