貞心尼に代りてよめる良寛歌(3)
3. 貞心尼、良寛歌集を初めて編む
四行目、「東」から「ふ」へ動きを狭め字幅をほっそりとした後に、「美」で幅を広げて印象的です。小さい「と」の次に「布」の二画目を左に張り出して、流動性が感じられます。
五行目「能」で墨継ぎをして、キリッとした線をきわだたせています。「之」から「波」と曲線がうねり、水の中を揺れるようです。そして、「以」「報」「理」と連綿して、優雅な趣があります。
終行は、渇筆ながら筆が活躍し、粘り強い運筆です。「遠」で右へ「以」は左へと動きながら、行をほっそりとまとめています。最後の「和」と「我」ふんわりとした柔らかさが、前の行の余白におさまっている点が心にくいです。
貞心尼との出会いから、良寛は五年後に遷化されます。三十八歳の時、貞心尼は、我が国最初の良寛歌集である『蓮の露』一巻を上梓されました。
参考文献:良寛の名品百選 加藤憘一編著