芭蕉の俳諧はどう展開したか(2)

2.國破れて山河あり
芭蕉は、平泉で杜甫の春望を思い、「夏草や」の句を詠みました。
春望
「國破山河在   城春草木深
 感時花濺涙   恨別鳥驚心
 烽火連三月   家書抵萬金
 白頭掻更短   揮欲不勝簪」*①

戦乱のために都長安は壊されたけれども、山河はそのままの姿である。春になっても
戦火は止まず、家からの便りが待たれる。髪も白くなってしまった。当時、安禄山の
叛乱はいつ終わるともしれなかったのです。

その後、賊将が洛陽を棄てて逃げたため、華州から洛陽に帰ることができた、杜甫が弟を思って作った二首のうちの第二首目、乾元二年(759)春の「憶弟二首」をご紹介します。

憶弟二首 杜甫  王鐸筆   祥香臨

    「且喜河南定不問
     ギョウ城囲百戦今誰
     在三年望汝帰

     故園花自発春
     日鳥還飛断
     絶人煙久
     東西消息稀」*②

「故園」からの五句六句で自然の営みに変化がなく、春のなごやかさを歌っています。
人の世がたとえ戦乱にまみれ、姿を変えようとも変わらないものがあり、それが自然
であるということが胸に響きます。

          * 出典:① 新修墨場必携  山本正一編
               ②漢詩と名蹟   鷲野正明