芭蕉、西行の和歌を歌枕とする(2)
2.西行の和歌を読む
今回は、「道のべの清水流るゝ柳陰」の歌がどのように書かれていたかを探るべく、
伝西行の和歌をみていきます。
上記の「山家心中集」は、西行(1118〜90)が晩年に、自詠の三百六十首と贈答の他人歌十四首を、花・月・恋各三十六首に、、雑上百七十首、雑下八十二首に分けて配列した
自分の作品を自ら選び編集した歌集です。*①
その中から、柳にまつわる和歌を取り上げて臨書したものです。
四行目の詞書から、
「山ざとのやなぎ
やまがつのかたおかゝけてしぬるのゝ
さかゐにみゆるたまのをやなぎ」
ここでは、「やなぎ」について考察します。詞書では、「や那き」と書き「や」から
「那」で大きく展開して「き」を包むように入れています。
それに対して、終行では「や」を左に張り出して「奈」で受け、「支」を右に寄せながら
左へも動きを出しています。ここでも、同じようには書かないという不文律はいきていると思います。特にかなでは、近くで同じ表現を繰り返すと単調になってしまうからです。
ちなみに、一行目では「や奈支」と書き、終わりの行と同じ選字ですが、書線の濃淡、
潤渇や流れが異なるので同じようには見えません。特筆すべきは、終行の最後の「支」
が次の行への筆意をもって書かれていることです。
出典:*① 山家心中集(重要文化財) 伝西行 高橋裕次